真実は時の娘

a0091515_751998.jpg恩田陸 『ユージニア』 (角川文庫)

巧い。何時の間にか読者も幻作りに加担させられている。
「憧れ」と「不安」がそれぞれのひとの言葉となって現れ読者はそれを読んでは想像を掻き立てる。あの夏の記憶が重なる領域に古い館は建っている。花は咲いている。影が揺れている。「核心」へ向かおうとするのだが霧が深い。みんなの幻が邪魔をする。時に一陣の風が立ちおぼろげに見えたような気もするのだが違ったようなあやふやな気になる。それでも「犯人」は目の前にいる。ことだけは解っている。つもり。
結果、ひとそれぞれに自分だけの理由があると知る。ひとはみなひとりだから。
その切なさがこの作家の立脚点だろう。

枝豆の莢やとうもろこしの芯、西瓜の白い部分やアイスキャンデーの棒の数を増やし、出入りの酒屋がビールの空き瓶をがしゃんと鳴らす音を聞きながら、夏はのろのろと過ぎてゆく。子供たちが冷たいものを飲みすぎてお腹を壊し、叱られながら正露丸を飲むのを横目に、夏は逝く。

次は『チョコレートコスモス』だ。

by costellotone | 2012-06-28 07:08 | 読書 | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://costello.exblog.jp/tb/15654372
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< 千人の交響曲 鉄は熱いうちに >>