中上健次 『日輪の翼』 (小学館文庫)
夏芙蓉咲く聖地熊野の「路地」から冷凍トレーラーに7人の「オバ」を乗せて目的のない旅に出る痛快道中小説(ロード・ノベル)。 何時でも若い男らは何処でも性を謳歌し、何処でも老婆らは何時でも解放を唱えた。『千年の愉楽』での老婆たちの存在が本来の「路地」の規律。けれども「路地」は消滅してゆく。太古から人はみな何を求めて移動するのだろうか。 以前北野武に映画化を、と書いたが、ネット上で同じ思いの人を発見出来てうれしかった。夜明けのサービス・エリア、老婆たちが鍋釜・布団を持ってトレーラーの中へ入っていくシーンを見たいと思いませんか? ビオイ・カサレス 『豚の戦記』 (集英社文庫) 政治的・経済的に混乱した南米ブエノスアイレスの若者たちと、連帯を求めて孤立を恐れない老人たちが戦いを始める。街角の新聞売りの仲間が頭から血を流し、爺さんは若い女に色目を使う。勝利を我が手に、戦いだ! 南米の深刻な現実問題と、南米文学特有の非現実性(幻想性・どうでもよさ)が混沌としていて、一体何のために闘っているのやら解らなくなる。この小説は映画化されているが未見。 文庫版「ラテンアメリカの文学」シリーズには『老いぼれグリンゴ』と『はかない人生』と言う、人生の終りに向う男を描いた小説もある。 中島らも 『超老伝 カポエラをする人』 (角川文庫) こちらは中島らもの異色痛快傑作老人格闘小説。現実の「ゲ」の字も思い浮かばせないストロング・スタイルの空想爆笑小説。(妙に高橋留美子の「らんま1/2」に似ていません?) 文庫版の解説で関川夏央が「話芸こそが文学である」と書いていたが、古今亭の「黄金餅」のスピードで、最後の一字まで一気に読ませる作品で、後には何も残りませんです。 以前松尾貴史が舞台化したそうだが見ていなくて残念。そう、これは映画ではなく舞台で観てみたいですな。 空想格闘小説では夢枕獏『空手道ビジネスマンクラス練馬支部』も。
by costellotone
| 2007-05-17 15:07
| 読書
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Comments(2)
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kouji_kotani at 2007-05-18 21:09
中上健次さんは、読めないんです。君の幸せを願って僕はドラッグをかみくだく、
という内容の短編ありますか。 そのくらいしか覚えていません。 ロード・ムービーと熊野と路地と生と性と老い、 ずっしりとお腹にたまる感じ、 食わず嫌いは、駄目ですね。
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costellotone
at 2007-05-19 13:14
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いとうせいこうさんが大江健三郎『宙返り』の解説で、自身を「大江読み」と言っていましたが、僕もそうで、中上健次の『異族』には手を出せないでいます。近いうちにやっつけにかかるつもりですが。
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