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樹氷にしてねとあの娘は言った

大森一樹監督 『風の歌を聴け』 1981年 ATG
小林薫 真行寺君枝 坂田明 巻上公一 室井滋


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 今まで生きて来て、突然忘れてしまっていることに気づくことがある。そんなことが、歳を重ねる毎に事柄も回数も増えてしまっている。時に忘れてしまったことさえも忘れていることもあると思われる。もう一生思うこともないことも多くあるだろう。

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 例えば好きになった女の子や寝たことのある女性、多分全て顔はぼんやりと憶えているのだが、名前もみんな憶えているつもりだが、ひとりだけ苗字を忘れてしまっていた。妙に悔しくていろいろと記憶を探ってみるのだがどうしても浮かんで来ない。当時は(もう30年も前だが)何時もいっしょにいて、いっしょに暮らしてもいて、いっしょに生きていたつもりだったが、時間の流れの中で苗字が欠落してしまった。何度も何度もその苗字を口にしたはずなのに。

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 苗字ばかりではないだろう。いろいろなことを忘れてしまうのだ。いろいろな理由で忘れてしまうのだろう。この映画の中で主人公は「楽だから」と言っている。そう全てのことを憶えていたら生きて行けないだろう。人は悲しいぐらい忘れてゆく生きもの、と誰かも歌っている。

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 僕が忘れていると言うことは、僕も誰かに忘れられていると言うことだ。けれど僕が憶えていると言うことは、誰かも僕を憶えていると言うことだろう。

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 時にふと思うのだが、僕の記憶の中に存在している女性たちは、現実に今も生きているのだろうかと。ほとんど途中から別の世界へと別れて行ったのだが、それっきり会うこともないのだが、今も現実に生きているのだろうか。はっきり言う。もしかしてすでに死んでしまっているのではないか。あの彼女が。
 俯いて愕然と固まるしかない。

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 しかしだ。時にふたりで過ごした過去から風の歌が聴こえる。誰も知らない、神様さえも知らない、あの時のあの場所から、あの陽だまりから日蔭から、風の歌が聴こえて来る。
 そう言う小説であり、映画です。

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 この映画のローリング・タイトルには僕の名前がある。だからではないが、何時までも風の歌を聴こう。
 揺れる眼差しの小指がありますように。

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P.S. ラジオから「人生の扉」が聴こえている。竹内まりやも五十路を越えたんだ。But She'll maybe live over 90.

by costellotone | 2007-05-24 13:01 | 映画 | Trackback | Comments(2)
Commented by kouji_kotani at 2007-05-26 19:14
室井滋さんも出ていたんですね。
少し不思議なキャスティングな感じもしますね。
Commented by costellotone at 2007-05-26 19:40 x
室井は早稲田シネ研で「自主映画の女王」でした。同じ村上春樹原作の映画「100%の女の子」、「パン屋襲撃」(共に山川直人監督)にも出演しています。
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