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あひるの学校-23

memo
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 去年の今頃に起きた最悪の事態を書き残しておこうと思います。

 2006年が明けて、1月の5日頃からパンの膨らみが悪くなり、ノア・レザンやフランス・パンなど比較的硬い生地のものはまだしも、食パン、マフィン、テーブル・ロールなどの柔らかい種類はみんなだめになってしまいました。これまでも多少小さくても天然酵母と言うことで、プロとしては恥ずかしいのですが、お店には納品させてもらっていたのですが、この時はそんな甘い状態ではなくなってしまいました。毎日作ったパンの半分は納品出来ないような状況に陥りました。
 例年とても寒い日が数日続く頃は、エキスも元種も発酵不足になり、当然生地もあまり膨らみませんでした。しかしそんな場合はエキスや元種や生地を30℃ぐらいに設定したホイロに入れたり、仕事場を暖かく保ったりして、何とかくぐり抜けて来ました。もちろん仕込み水の温度も高くしました。しかし今回ばかりは何をしてもだめでした。思いつく限りの対処法を試してみました。先に書いたことはもちろん、元種用の小麦粉と塩の種類を替える。レーズンの仕入れ先も変える。毎日使っている浄水器に何かの菌が繁殖しているかもしれないと思い、他の水に替える。ホイロの中をきれいに掃除し、蒸気用の水を取り替える。もしかしてオーブンの設定温度が壊れているかと思い、別にオーブン用の温度計を使う、またホイロにも別の温度計と湿度計を用意する。オーブンとミキサーで使うタイマーをもう1種類用意する。
 また、1次発酵と2次発酵の時間を変えることもしました。このために今まで守って来た1日のスケジュールが崩れてしまい、夜中の11時に分割して2時から焼くとか、毎日パターンを変えたりもしてみました。そのため何日も徹夜をしました。
 天然酵母に影響があると言われる、大好きだった納豆を3年前に断ちました。もちろんアルコールも煙草も既にやめてしまっています。ヨーグルトやキムチなどの発酵食品もこの際やめました。
 パンの生地には音楽の好き嫌いがあるのかとも考えました。毎日朝4時から10時までと、夕方4時から7時までは仕事場にFMラジオをつけっぱなしにしているのですが、もしかして音楽によって生地の膨らみ方が違うのではないかと思った訳です。確か以前バロック音楽が良いなどど何処かに書かれていたような気になり、バロックの室内楽を古楽で演奏しているCDを1日中流しました。他にもビートルズやサイモンとガーファンクルやレッチリやオアシス。果てはメタリカやモトリー・クルーまでかけました。もちろんヒーリング・ミュージックやニュー・エイジも聴きました。結局音楽は、当然ですが、関係ないようでした。僕が楽しんだだけでしたね。

 こんなことが1ヶ月以上も続きました。当然体調と精神状態、および経済状態が低下するのでモチベーションを保つのが一番重要でした。少し膨らんで何か原因が解りかけたようなことがあっても、翌日にはまた膨らまなくなってしまいました。確固とした原因は全く判明せず、しっぽすら掴んだと思ったら逃げて行きました。そんなことの繰り返しの日々でした。
 本当に、買ってくれているお客さんと、卸しているお店の方に申し訳ありませんでした。しかし開き直った訳ではないのですが、敵は自然、天然のことですから、出来ないものは仕方ないと自分に言い聞かせていました。お客さんやお店の方たちから何度も暖かい言葉をいただきました。中にはわざわざ電話を下さって、出来るのを待っていると激励して下さいました。
 何よりも辛いのは失敗したパンをゴミ袋に詰めて捨てに行く時です。かなりの量の失敗してしまったパンを何回も捨てました。これが一番きつかったですね。
 
 そして何度も、何もかもやり尽くして途方にくれた毎日を送っていた頃、やっと少しずつ元に戻って来ました。2月も終りに近づいた頃でした。
 原因は結局解らず仕舞いでした。立ち直った頃には、外の景色は未だ冬でしたが、気温が徐々に上昇していたと思います。だからそれなりに発酵も活発化していたのでしょう。
 解ったことはただひとつだけ。作り続けていれば何時かは元に戻る。これだけでした。だから今も毎日作り続けている訳です。
 
 またあの悪夢がやって来ないかと心配しています。少しだけ。ほんの。

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by costellotone | 2007-01-12 15:00 | パン | Trackback | Comments(0)
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