11、最後に - その8
毎日のように試行錯誤を繰り返しているうちに、天然酵母で作る場合はフランスパンや食パンのような混ぜるものが少ないプレーンなパンよりも、ライ麦やドライフルーツ、木の実など副材料が入った種類の方が作りやすいことだけは解りました。簡単に言えばあまり膨らまなくても商品になる、失敗が少ないと言うことです。 天然酵母のパン屋さんの「ノアレザン」などはどっしりと重くて大きく、それなりの値段がつけられています。そこで同じようにフルーツや木の実が入ったパンでももっと小さくて、子どもやお年寄りでも手に取れるサイズで価格も抑えられた商品を作ろうと思いました。それが以前に考えていた小さくて種類のあるテーブル・ロールのように出来ればと思い5種類を考えてみました。 とりあえず大きさは他のお店の1/3以下で1個100g。作るのは面倒ですし、値段も安くて利益は低いですが小さな子どものいる母親には手が出やすいと思いました。種類ですが「ノアレザン」は作るとして、以前パン屋さんで働いていた時においしいけれでも売れなかった「ひまわりパン」を先ず思い浮かべました。 パンに混ぜ込む材料で無農薬のものをいろいろと取り寄せてみましたが、バナナとピーチは使えそうでした。両方とも珍しいし、果実自体の甘さがあるので砂糖を使わなくてすみます。この種類のパンはとりあえず砂糖不使用と言うことも商品価値に付加したかったのです。実際に両方とも作って食べてもらってみてOKでした。残りの1種類はひまわりとかぼちゃの種と松の実を混ぜ込んだ「シード・パン」を考えたのですがこれだけだと甘みが足りないし地味です。レーズンを加えては「ノアレザン」に似てしまいおもしろくないのでカレンズを混ぜることにしました。 次にこの5種類に混ぜる粉を考えました。このようなパンにはよくライ麦粉を混ぜるとおいしくなるのですが全て同じだと普通になってしまいます。「ノアレザン」と「ひまわりパン」「ピーチパン」にはライ麦を混ぜ、「バナナパン」には小麦胚芽を、「カレンズ・シードパン」には全粒粉を混ぜ込みました。 これで5種類が完成し卸し先にからも了承されました。 いろいろな種類の試作の段階で決定しなければならないことのひとつに原材料の仕入先がありました。これはこれから僕がやるパン屋の方向性にも関わって来る問題です。具体的に言えば全て有機の材料で作るのか、そうではないのか。出来れば前者がいいのだろうけれども価格の問題と、安定した供給が得られるのかと言う問題もあります。 大雑把に計算すれば全てを有機の材料で商品を作ればかなり高価になってしまいますのでちょっと一般的には手が出難くなってしまいます。それでも買ってくれるお客さんもいるのでしょうが、ロスの問題も大きく危険があり過ぎます。 ドライ・フルーツやくるみなどの副材料は何とか有機の製品を手に入れることは出来るかも知れませんが、問題は小麦粉です。南部小麦など有機で生産されている小麦粉はありますが毎日安定して供給されるかは不安ですし、やはり高価です。あとはカナダ産、アメリカ産など輸入ものの有機の小麦もあることはありますが、こちらの方が国内産のものよりも安いのですが、やはり安定して手に入るかは疑問です。 有機の小麦で作るのを諦めたのは、実際に国内産やカナダ産などでパンを作って食べてみた結果、味と食感が僕が求めていたものとズレがあったからです。いろいろな種類を作ってみたのですが、特に食パンの味がどうも固く感じたのです。生地が硬いというのではなく食べた感じなのですが。 これまで僕が家庭で作って来たパンは北海道の「江別製粉」の「はるゆたかブレンド」を使っていました。この小麦で作ったパンの方が「ふくよか」な感じがするのです。食感ももちもちとしています。(「はるゆたか」は収穫量が少なくて100%の製品はなく、他の北海道産の小麦粉とブレンドされたものしかありません。ちなみにパンは強力粉で作るものとされていますが、厳密に言うと国産の小麦粉で強力粉はなくて準強力粉だそうです) 小麦、ドライフルーツなどの副材料、砂糖、塩、ライ麦粉、ふすま、胚芽など全ていろいろな製品を取り寄せて実際にパンを作ってみながら決めて行きました。やはり価格が一番大きな問題でした。結局「出来るだけ無農薬有機のもを使う」と言うことにして「安全でおいしくて安い」を指針にしました。 毎日のようにパンの試作を続けるのと同時に機材の見積もりと仕事場の設計も大きな作業でした。もちろん資金の問題が一番頭が痛かったのですが最終的に「国民生活金融公庫」から借りることが出来ました。 最低必要な機材はオーブンとホイロ、ミキサーの3点です。オーブンとホイロが上下で一体となった製品があるのでそれにしようと考えていました。それにしてもオーブンとミキサーは高価です。両方あわせれば車の一台は簡単に買えてしまいます。その他にも生地などを冷蔵しておくコールドテーブルやラック、めんだいから天板、食パン型などの細かいものまでいろいろ揃えなくてはなりません。 各社のカタログを取り寄せて計算をしてみましたがやはりかなり高い。もちろん中古の製品も考えましたが、早く壊れやすいのではとか、メーカーの保証のことで気が進みません。新品で一括で具体的にいくらになるのか相談したくて江東区にあるメーカーを訪ねました。その会社に全てを任せてしまえばそれなりに安くはなりますがそれでも高い。それ以外にも仕事をスタートさせれば原材料費や光熱費、雑費など毎月出て行くお金が当然あります。無理にでも何処からか借りて、もし途中で仕事をやめなければならなくなった場合のリスクを思うと決心がつきません。 半場途方に暮れながら帰宅すると知り合いから一本の電話がありました。僕の家の近くにあったパン屋さんが店を閉めるので機材を一括して売りに出すと言うポスターを見たと言うのです。その日は夜遅かったので翌朝電話を入れてすぐに見に行きました。実はこのお店でパンを買ったことはなかったのですが、夫婦ふたりでやっている小さな店で、オーブンやミキサーも一番小さな製品でした。加えてホイロと一体になっているオーブンで、僕が望んでいたものでした。製造の道具一式と言うことなので天板からめん台からめん棒、スケッパー、あんべらまで当然全て揃っています。こんなラッキーなことはありません。もちろん中古ですが新品でそろえるのと比べれば値段は1/3以下で手に入ります。即決しました。 実はこの機材の購入以前に仕事場は出来上がっていたので、全ての機材を部屋に入れることが出来る大きさだったのでほっとしたのが本当の処でした。
by costellotone
| 2008-12-02 12:57
| パン
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